本格的な「雑木の庭」の作り方

木が健康に育ち、人が心地よく感じる

木が健康であれば、人にも心地よさを与えてくれます。見た目が雑木林に見えるだけでは、本当の雑木の庭とはいえません。「健全な森林とは、どんな環境なのか」を考えることから、雑木の庭づくりは始まるのです。自然のありのままの植生にならって、山のような空気感を庭にもたらすこと。それによって、人の暮らしも快適になること。それが、本来の「雑木の庭」の魅力です。

ナインスケッチの植栽方法は、見た目を優先して木を植付けるのではなく、樹々が健康に生息していくことを目標に森林植生に習って植栽するようにしております。鑑賞するだけの庭ではなく、緑の力を生かして心地良い住まいを外廻りから考え、ご提案します。

土の中に「水」と「空気」の通り道をつくる

土の中の水脈は、人間のからだに喩えると「毛細血管」の役割です。からだの隅々にまで血を巡らせるように、土の中に水脈をとどこおりなく巡らせることが、土壌づくりの基本です。溝を掘り、土の中で地形の高低差をつけ、水が動くようにしていきます。水が動けば、空気も動きます。空気が動くところに微生物や小動物が発生しやすくなり、彼らの働きによって、健全な土壌がつくられます。そこに樹々の根が伸びやすくなります。

平らな土地でも、自然の中で見かけるような斜面や谷をつくり、自然地形の環境を再現することが大切です。水は地形の落差で動くので、縦穴は川で言えば滝つぼ、横溝は谷筋のイメージで形づくります。谷筋には、水と空気が集まるので、有機物である枝葉などを入れて、泥詰まりを軽減させ、水と空気を浸透しやすくします。木の根が張り巡らされ、大気圧がかかってくることで、そのわずかな隙間を埋めようと、空気や水が循環します。空気が循環するところに、動植物がいきづくのです。

日光東照宮の石積みを見るとコンクリートで土留めをする現代土木と比較して、石積みの隙間によって、水や空気の通り道ができていることが分かります。コンクリートによって空気が遮断されることもありません。このように、美しい景観だけでなく、樹木と共存するような水脈が確保されていることが重要なのです。

自然の造形を活かした地形づくり

植栽の準備段階では自然環境の土壌を再現します。単に土を盛るだけではなく、自然の地形を模倣し、通気性や排水性を考慮した理想的な環境をつくります。まず、既存の土壌の上に新たな地形を築き、起伏や谷を設けることで、通気性と排水性を確保した健やかな環境ができます。

植物の健やかな成長を促すために、杭を用いて安定性を確保し、杭の間に枝や炭を挿入することで、根の張りを促進し、土壌の通気や排水性を向上させます。成長初期の植物は、まだ十分な強さを持っていません。そこで、根鉢を支えるように杭を打ち、転倒を防ぎ、安全な生育環境を提供します。

地形づくりにおいて、枝や落ち葉の存在も重要な役割を果たします。これらの有機物が土壌に混ざり合うことで、保水性が向上し、植物に必要な水分を蓄えることができます。落葉をめくったときにフカフカの土が見えるように、団粒構造になった土が理想の土です。団粒構造の土とは、有機物などが集まって固まった土のことです。団粒構造の土壌には適度な通気性と保水性があり、樹木と共生している菌根菌(きんこんきん)などの菌類が住みやすくなります。菌根菌は、樹木の根と共生することで樹木が吸収することができない離れているところの水や養分を吸収してくれたりして、樹木にとっては、生きていくうえで欠かせない菌類といえます。

森から学ぶ、植栽の方法

まず、健全な森林はどんな植生なのかを考えることが大切になります。なるべく自然の植生を庭にも持ってくることを心がけます。山の雑木林では、樹木は密集していながらも、高木、中木、低木、林床植物と空間を上手に住み分けて、立体的に形成されています。これにならって、現場で植栽する時も同じ様に密植して階層的に、高木、中低木、下草と空間を分け合いながら植付けることが大切です。

雑木の庭づくりに欠かせない樹木「コナラ」は根を深く伸ばす樹種です。根を深く伸ばし土中の水脈を改善し、土を健全な状態を造ってくれます。またコナラは日射しに強く、上部で枝葉を広げてくれるので、その下のモミジなどの中木類は日射しを緩和され軟らかい枝振りになってくれます。このように最適な樹種の選択と組合せによって、月日が経っても雑木林のような樹々の姿が維持できるのです。

木は人間と同じで1本では生きられません。自然の雑木林を見ても、木は1本だけで生息しているところはありません。木を1本で植付けると、直射日光や地面からの照り返しが幹に当たります。すると幹は温められ、乾燥し幹から水分を奪い痛んでしまいます。水分や栄養分が上部まで上げれずに頭から枯れ始めてしまうこともあります。そのために密植が必要なのです。木を密集して植えることで、お互い強い日射しや風などから守り合えるのです。

近頃では、庭や外構でも雑木を扱われることが多くなってきました。樹形が柔らかい、見た目がいいなど、人の都合で樹種が選ばれているケースがよくありますが、自然の植生に合わせて木を選ばないと、虫が出たり、木が病気にかかったりします。たとえば、モミジなどの中木は、自然環境の中ではコナラなどの高木が直射日光を遮ってくれる環境で健やかに育っています。植付けた時が完成ではなく、そのあと庭全体として成長できるような環境で、木が健やかになって初めて人にもその恩恵を与えてくれます。樹々が健康に成長していけるような手助けをし、人と樹々が共存できるような管理が大切です。

健全な自然環境のように仕上げる

表層の仕上げには、落葉を使います。落葉を敷くことで、見た目が一気に自然の山の雰囲気になります。それだけでなく、落葉を敷くと雑草の抑制や表層の乾燥防止にもなり、また土の中で微生物が活動しやすくなります。このように見た目だけでなく機能面でも落葉は活躍してくれます。

落ち葉のほかにチップや、腐葉土になる手前のものも、表層の通気改善に役立ちます。こうして土の表層を詰まりにくくなることで、通気環境をいい状態に保ち、それぞれ根の深さが異なる下草や低木、中低木、高木の根と連動して土の中の環境を維持できるのです。

伊豆の天城山の山道では、このように健全な雑木林には斜面がきつくても落葉が堆積しています。また、ところどころコケが生えていることも分かります。人が手入れしているわけではないのに、樹木にとって理想的な環境が保たれています。こうした健全な自然環境から学び、雑木の庭づくりに活かしていきます。