エフベースさんで『雑木の庭』の手入れ講座
先日のお盆前に、いつもお世話になっている掛川市の工務店、エフベースさんのお施主様の前で植栽の手入れのお話をしてきました。
植栽の手入れというとどうしても枝葉の剪定に目がいきがちで、どの位の大きさにしていこうか。と現状維持のハサミの入れ方の認識が多いかもしれません。しかし、雑木の庭の管理は、そうではなく、植栽(工事)と一体と考えて、庭を成長させながら手入れしていく必要があります。
そのためには、まず、全体の木の様子を見て葉っぱの色合いや幹の表情など木の健康具合を確認していくことから始めます。状態が悪ければ何が原因なのか探り、土壌の追加的な改良や通気改善も行う必要があります。
手入れとは手を入れるということ。剪定するだけが手を入れることではないと思います。剪定しない木もありますし、その庭にどう手を入れてあげれば木々が健康に生育していくかを考えて手入れをすることが大切だと思います。
では、木が健康に生育していくためには、ということを簡単な座学を通してお話させていただきました。
まずは、自然環境がどうなっているかという話です。ポイントは、大地の中の見えない部分には空気と水の流れがあるということ。この水脈について考えていく必要があります。大地には、目に見える川として流れる水はほんの極わずかで、地中や地表を行ったりきたりして人間の毛細血管のように水脈が張り巡らされています。人間は血管が詰まると死んでしまうように大地も水脈が詰まると大げさに言うと死んでしまいます。そんな大地の中の水脈が滞ると山はヤブ化してきます。よく草や竹などボウボウに生え、見た目も実際にも風通しが悪いように見えます。
そんな、大地の中を見てみると、青みがかった灰色のヘドロ化した土になっています。
これをグライ土層と言いますが、水脈が詰まると水は滞り、空気も停滞してしまいます。空気がなくなれば酸欠状態になりこのような土になってきます。このグライ土層では、微生物や小動物は住めなく、ましてや樹木の根が伸びてはいけません。樹木の根が水脈を作ってくれる担い手なのに根が伸ばせず、負の連鎖がおこってしまいます。木は根が伸ばせれなければ水や栄養も吸い上げることができません。木は健康状態を保てなくなり、病害虫の発生にも繋がります。だから、手入れでは、土中環境の水脈通気改善をする必要が出てきます。大地が呼吸できる環境を取り戻し小動物や微生物、菌糸が住みやすい環境を整えてあげれば、土はフカフカの団粒構造になり木々の根も伸びやすく木が健康に生育してきます。木が健康に育てば我々人間にも自ずと心地いい環境をもたらしてくれます。
次に外に出て、剪定の考え方の説明をさせていただきました。
木にとっては剪定はしなくてもいいかもしれません。しかし、人も暮らす場所で木々と人が共存していかなければなりません。そのために枝葉を落とす作業も必要になってきますが、その時は、剪定した後にどこで切ったかわからないような自然樹形を保ちながら剪定していきます。自然樹形を保てれば木にもストレスが掛かりません。中途半端なところで枝を落とすと木は反発してきます。元に戻ろうという力が働き伸び方も増してきます。木自身がどこで切られたか分からないようになれば枝の伸びも落ち着いてくるのです。
草の処理も同じように考えます。
草が落ち着くようなところで刈ってあげます。根は地中の空気と水を通す役割をしてくれるので、根こそぎ抜いてはいけません。
刈る位置も地際では刈りません。少し高めの風がなびくような位置で刈ってあげます。そうすれば草は安定して伸びも落ち着いてきます。地際で切ればやはり成長ホルモンが働き余計に伸びてきます。風で揺れるような位置で刈ってあげれば草は落ち着き安定し、それは、地面の中の根の伸び方も安定してきます。根の伸びが安定すれば地中で根は一様に広がり空気の流れも改善されてくるのです。地上の風通しもよくすれば地面の空気通しもよくなってきます。これらは、自然の風が行っていることです。台風など強風の時は、風が枝葉を折ったり、切ったりしていきます。風がどう動くか風なら枝葉をどこで落としていくか、人が作業をするのではなくハサミやノコ鎌を使って風が剪定していくイメージで動かすといいと思います。
最後に縦穴による水脈改善の実践をさせていただきましたが、昨年施工した改善部分を見ていただきました。
しっかりと空気を求めて細根が張り巡らされてきています。菌糸も付いてくれてます。樹木は根だけで水や栄養を吸い上げるだけでなく根と共生する菌が根だけでカバーしきれない範囲の栄養などをも吸い上げてくれます。この菌糸が土中でネットワークを組んでくれれば、庭全体が健康な状態になってきます。
そのためには、やはり、土中の空気の流れが健全にならなければなりません。だから、冒頭に話した手入れは植栽(工事)と一体で考えなければならない。という話にも繋がります。植栽する時は、樹木を単体で植えるのではなく、混色密植することが大切です。それは、高木、中木、低木と階層的に植え付けることでお互い守り合う環境を作ることと、根の形状が深根性、中型性、浅根性と様々な根の伸び方をする樹木を混ぜ、地中の中で根の張り方を毛細血管のようにすれば空気の流れもよくなり菌糸のネットワークも広がることができるのです。
雑木の庭の場合、手入れは植栽(工事)と一体に考え、工事した時が完成ではなくそこから手入れしながら庭を成長させていくことが大切です。それは、剪定だけでなく土壌の通気改善も行い、土中の空気の流れや菌糸のことなども考える必要があると思います。健康な自然環境を整えれば生き物や木にとっても過ごしやすい環境になりそれがまた、人にとっても心地よい環境になることでしょう。人間都合の空間づくりではなく動植物のためを思って自然に寄り添った空間づくりができるように頑張っていきたいと思います。
他の記事を見る
白金台 自然教育園で植生遷移のお勉強
2013.05.21 |