自然と触れ合う子供たちの未来を創る:音の森こども園の園庭拡張プロジェクト
2019年に新規開園した音の森こども園。当時、ナインスケッチでご縁をいただき園庭の設計と施工を担当させていただきました。その際、いずれは隣接する空き地や雑木林まで敷地を広げ、子供たちが自然と触れ合う場を増やしたいというお話を伺っていました。
その夢が現実のものとなるプロジェクトが始まりました。音の森こども園さんは、隣接する複数の地権者から土地をまとめて購入し、子供たちが遊びながら学べる場をさらに広げる計画を進められていました。この土地の取得には多くの時間と労力が費やされたと思います。複数の地権者との交渉や調整を行う中で、法人の皆様は一貫して開園当初からの想いを持ち続け、その熱意と努力には本当に心を打たれました。
私たちナインスケッチも、昨年の夏、このプロジェクトにお声掛けいただいたことを大変光栄に思っています。子供たちが自然と触れ合いながら成長できる環境作りに全力で取り組んできました。
そして、この夏、完成したので、その工事内容を少しご紹介したいと思います。
写真は昨年の8月、理事長とSNデザイン佐野さんとの現地で打ち合わせをした時です。
奥の森の一部と手前の広場が今回の対象地となります。
色とりどりの木々が生い茂り、葉がこすれるささやきが静かに響き渡ります。小鳥たちのさえずりが森の中を飛び交い、濃い緑が広がります。
敷地内に入って歩いてみると、足の裏の感触はちょっとグチュグチュし湿気を感じます。
枝先が枯れたり、垂れ下がったりする枝も見られます。
土が露出し、小さな土砂崩れが見受けられます。
林内は暗く、風通しも悪く、ジメジメしている感じがします。
パッと見、豊かな森として感じれますが、五感をフルに活用して測定していくとちょっとおかしいぞ。森や大地が苦しんでいる。という無言のメッセージが受け取れました。
子供達が遊べる環境は、健全な森があってこそだと思います。病害虫に覆われた森では不快に感じ、林内には入りたくなくなります。森の魅力は、木漏れ日を感じたり、木々の間を抜けてくる心地よい風を感じたり、春の新緑や秋の鮮やかな色づき、土や落ち葉の匂い、様々な虫や動物、鳥たちが往来してきたり、森の中にいると時間がとまったかのように心安らぐこともあると思います。これらは、森が傷んでいては体験できないことです。
今回のプロジェクトで最も大切なことは、健全な森、自然環境を取り戻すことです。
では、自然環境とは何なのか?どのように自然環境を見ていけばいいのか?を考えてみます。
自然環境は、簡単に言うと大地の環境と生物の環境と気象の環境がお互い相互作用をもたらしながら成り立っているものだと思います。
特に見逃されがちな気象の環境について考えてみると、地上で風が吹いたり雨が降ったりする空気と水の循環が地中でも同じように空気と水の循環があるということです。
人も空気がないと生きていけないように、どんな生き物も空気が必要になってきます。植物も同じです。植物は水だけを吸って生きているのではなく、空気も吸っています。人と同じように呼吸しています。呼吸できれば健やかに根を伸ばし始め、枝葉も伸びます。根が伸びることで根と土間にわずかな隙間が生まれ、更に空気循環の良い土壌へ変わってきます。空気循環が良くなれば離れていた虫や動物たちも戻ってきます。アリやミミズやセミ、モグラやイノシシまでもほとんどの生き物が土に穴を開ける暮らしをしています。穴が開くことで地形の落差によって水が浸透しそれと同時に空気も浸透し始めます。
このように、空気と水の循環が整えば生物の環境がよくなり、大地も空気循環や水の浸透が良くなりながらも安定する土壌になってきます。大地と生物と気象のファクターが複雑に絡み合いながら成り立っているのが自然環境だと思っております。
それが、今日では、建築や道路などコンクリートなど開発することで、地中深いところまで構造物が入り、空気と水が遮断されるようになり地中では通気不全、酸欠状態になっています。
そんな環境では木々は健やかに生育できません。その苦しんでいる無言のメッセージが木々の表情から読み取れます。
このことから、傷んだ森の環境を改善するには、空気と水の循環を取り戻すことになります。
地上の風通しを地中に繋いであげることが大切です。
まずは、今回のプロジェクトである敷地の出口部分の草刈りを進めます。
計画する部分のみ作業しても改善が進みにくくなります。
その敷地がどこに繋がっていて、出口はどこなのか?それを把握する必要があります。
出口が詰まると上流をいくら改善しても抜けきれないです。
逆に出口が抜けていけば、引っ張られるように上流の空気循環も良くなってきます。
そして、地上の風が動き出せば、常に大気圧がかかっているのでその空気が地中へと動きだします。
その地上の空気がより地中へ浸透しやすくするように地形に落差をつけるように溝を掘るようにします。要は、大地に空気と水が循環する、水脈を敷地全体に繋いでいきます。
人は血を循環する血管が体中に張り巡らされているように、大地にも空気と水を循環する血管を通すように改善をしていきます。
敷地内には水がはけずに溜まっている箇所があります。これだけ、大地の血管である水脈は滞り、水が浸透しきれずに表面に水があがってきてしまっています。
重機を使って、敷地全体に水脈を繋ぐように掘っていきます。
掘る箇所を斜面と平面の接点部分、人でいうと間接的なところ、エネルギーが集まるようなところで基本的に掘っていきます。
あるところにくると、水道管が爆ぜたように勢いよく水が湧き出てきました。
これが歩くとグチュグチュ感じる原因だということです。
地中に水が行き場を失って滞っていた水です。水が滞っていたということは、空気も停滞していたということ。そんな環境では植物を含め生き物は苦しくて仕方ありません。
大木の根元付近にもこんなにも大量の水が滞っていました。
木は苦しくて仕方ないです。この木は腐朽菌も入っていました。
掘れば掘るほど水がどんどん湧き出てきます。
数日間、水の動きがどうなるか様子をみます。
数日経っても、水は量は減ったけど、常にチョロチョロ湧き出て動いています。
この場所は、水が出やすく集まりやすいところだなと思い、無理やり水を吐かすのではなく、いっその事こと、池をつくったらどうだろうか。池があれば、水中生物も生息し、鳥もくることになり、森と合わせて多様性な環境となり子供達の自然観察の場には適しているだろうと思い、園側に相談させてもらいました。
当初の計画にはなかった池つくるという提案を園側は受け入れてくれ、ご理解に感謝致します。
池は、防水シートを使わず、その時期によって水嵩は変わってきます。
周りには、石を無造作に打ち地形を支えます。
高低差のある地形には焼き杭を打ち、枝でしがらみ柵を施します。
しがらみ柵は、地形を安定させながら断面的には空気と水が抜けていきます。コンクリートの土留めは土を留めることはできますが、空気と水を滞らせてしまいます。
上段部分に上がるには、丸太でステップをつくりました。
丸太の裏側にも炭と枝葉を組み入れ、ここで水を受け止め地中への水と空気の浸透を促します。
ちょっとした施しも大切になってきます。
敷地中央部の雑木の枝葉が広がり心地よい木陰が落ちる辺りにウッドデッキをつくりました。
ウッドデッキの基礎もどのように作るかがポイントになってきます。
健全な自然環境を取り戻すことが目的であるので、ウッドデッキなど建築物を作ってそこの環境を傷めては意味がありません。一般的は基礎は土間コンクリートを打ちそこに束柱を建てます。もしくは、コンクリート束石をモルタルなどで据えてそこに束柱を建てる仕様が一般的です。いずれにしてもその仕様だと大地を締め固め圧をかけ水と空気循環が滞る要因になってしまいます。
今回は、コンクリート基礎ポストを据えるのにモルタルなどは使わずに栗石を主に使い、止めていきます。
穴を掘り、焼き杭を打ち、支持力を保ちながらも杭を通じて水と空気が浸透するようにします。
藁や炭やくん炭も適度に使いながら、栗石と砕石を使用しながら止めていきます。
仕上がるとびくともしなく安定します。また、栗石を通じて水も空気も浸透するので、ウッドデッキができることで、より森が息づく環境になってきます。
また、湿気もこもらず、ウッドデッキ自身も長持ちしてきます。
なんだかんだで2ヶ月程かかりなんとか完成となりました。
写真でも伝わってくると思いますが、空気感がよく心地よい風が林内を吹き抜けていきます。
着工前の写真をもう一度載せます。
森が元気に見えるのは、地上の風を通し、水脈を掘って木々の根に空気を届けることで、目に見えない空気の循環が促されたからだと思います。
池周りはこんな感じになりました。
森から繋がる水脈はオープンにし、水脈を傷めないようにしがらみ柵を施し、丸太で橋をかけ渡れるようにしています。
芝生の広場は全体的にかまぼこ地形に仕上げました。
既存の園庭と風景がつながります。
高低差のある地形は、しがらみ柵を施しました。しがらみ柵をステップ代わりに登り下りして遊んでもOKです。上段に登りやすいように一部は丸太で階段状に仕上げ、水脈をつぶさないようにデッキ仕様にし浮かすようにしあげています。
ウッドデッキは木陰が落ち、この園庭で一番の特等席となりました。
デッキ床の木陰がゆらめき光と影が感じられます。
完成後、子どもたちと触れ合う機会をいただき、作業に込めた思いや意図についてお話しさせていただきました。
最後に感謝のパネルをいただき、仕事冥利に尽きる思いでとても嬉しく思います。
この園庭は、ただの遊び場ではなく、自然が持つ豊かさと繊細さを感じ取れる場所として作らせてもらったつもりです。私たちは、子どもたちがここで遊ぶ中で、自然の大切さを五感で感じ取り、自然と共に生きることの意義を学んでほしいと願っています。
木々の間を通る心地よい風や、春の新緑、秋の色彩豊かな景色、土の香り、そしてそこに生きる虫や動物たちの存在を感じながら、自然がもたらす癒しと安らぎを味わってほしいと思います。自然の中で過ごす時間が、心を落ち着け、豊かな感性を育む手助けとなってくれると思います。
また、自然環境の大切さを実感し、どのようにして自然を守ることができるのかを考えられる大人へと成長してほしいと願っています。森の中で見えないところで行われている空気と水の循環、土の中で命を支える営みを理解し、それを未来に向けて守っていく心を育んでほしいのです。
この園庭が、子どもたちにとって自然と触れ合いながら成長する場となり、自然環境の大切さを次の世代に伝えるための第一歩となることを願っています。
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